記事タイトル
切らないインプラント手術の利点、注意点
切らない(フラップレス)インプラント手術について
お話します。
抜歯即時埋入インプラント手術を除いて
通常は、インプラント埋入部位の歯肉を切開、剥離して
歯槽骨の形状をはっきり視認できるようにして
インプラントを埋入していきます。
それに対して
CTが普及して術前の3D診断が容易になっている現状では
コンピューター上で、インプラント手術だけでなく
最終補綴物(かぶせもの)の形態をシュミレーションすることが
できるようになりました。
画像1~画像3
フラップレスのインプラント画像です。
70代女性です。他院で右上前歯を抜歯し、
一番小さな入れ歯を作りましたが、うまく噛めずに
違和感がなくならずインプラントを希望で来院されました。
抜歯を行い、6カ月以上は経過していますので、
歯があった歯茎の部分はすでに骨の吸収が始まって
へこんでいることがわかります。(矢印の部分)
術前のCT診断では
想像していたより、骨がたくさん残っており
インプラントを埋入する部位の状態は良好でした。
例えば
下の奥歯のインプラント手術時に注意を要する下顎管神経や
上の奥歯のインプラント手術時に気を付けなければならない
上顎洞といった重要な組織には、影響を与えることはありませんが、
上の前歯ですので
あまりに骨の吸収が進むと、鼻腔底までの骨の厚さを考慮して
インプラントの長さを決定する必要が出てきます。
しかし
この症例では
抜歯を行ってから、さほど時間が経過でしていませんので
計測すると骨の厚さは14ミリありましたので、
フラップレスでインプラント手術を選択しました。
術式は
通常はメスを用いて歯肉の切開を行いますが
当クリニックでは
炭酸ガスレーザーを使用して、インプラント埋入相当部位を
直径が4ミリのスプラインHAインプラントに合わせて
円形状に歯肉を除去します。
そのあと
インプラント埋入手順に従い、3本のドリルでインプラントを埋入する窩を
形成した後インプラントの埋入が終わったら
CTを撮影して埋入深度,方向、さらには
インプラント周囲の骨の厚み、鼻腔までの距離を計測します。
ここで安全、正確にインプラントが埋入していることが
確認できたら、その部位は縫合せずに
コラテープまたはスポンゼルをインプラント窩の大きさに合わせて
整形し、詰め込みます。
最後は事前に製作済みの仮歯(プロビ)を
外れないように、両わきの歯に接着剤で固定します。
次は通常のインプラント手術です。
画像4~画像6
18歳の女性です。
運動中に前歯をぶつけ、歯根が折れてしまい抜歯になり
インプラントを希望されてきました。
通常のインプラントは
このように歯肉を切開、剥離してインプラント埋入相当部位の骨の
形状をはっきりと視認できるようにしてから、手術をはじめます。
歯肉を切開剥離することにより
インプラントが定められた位置まで埋入できているのか
確認することが容易です。
もし
インプラントがしっかりと決められた位置まで入っていなければ
いったんインプラントを外し、再度インプラントを埋める窩を
より深く削りなおしてから、インプラントを埋入しなおします。
逆に
インプラントが深く骨の中に入りすぎた場合には
外すことなく、定められた位置まで戻せばいいのです。
このようにして
インプラントの埋入位置、深さ、左右の歯とのバランスなどを
比較しながら、正しい方向に入っていることを
確認します。
そして
最終的にはCT撮影を行い、
インプラント周囲の骨は十分確保できていることをチェックし、
ここではじめて安全にインプラント手術ができたといえるのです。
そのあと
剥離した歯肉を元に戻し
歯肉が開かないように縫合糸で縫合し
仮歯を両隣の歯に接着剤で固定して
インプラント手術は終了です。
切らないインプラントの利点として挙げられているのは
1、メスで歯肉を切開、剥離せずにインプラントを埋入できる。
2、インプラント埋入後、歯肉を縫合しませんので手術時間を短縮できる。
3、歯肉を剥離しませんので、術後の腫れを押さえることが可能。
4、メスを使用しないので患者様の精神的ストレスを軽減することができる。
しかし
実際には次のような注意点があります。
1、歯肉を剥離切開しないので、歯槽骨をはっきり確認することができずに
インプラントの埋入が、定められた位置まで埋入することが
不確実になります。
歯肉の厚みや硬さは、個人差があります。
歯肉が薄い場合には容易ですが
歯肉が厚い場合には
歯肉の下にある歯槽骨の形状をはっきり確認することが
難しく、メスで切開しなくても出血はありますので、
このような条件では
インプラントの埋入に深さが浅くなる可能性があります。
インプラントが成功する条件の一つに
インプラントの埋入の深さが挙げられます。
それぞれのインプラントには必ずここまで埋入しなければならないという
基準の深さが決められています。
その基準より骨に深く埋入しても臨床上は問題ありません。
逆に
浅く埋入された場合にはさまざまな問題が生じる可能性があります。
例えば
被せものの形態が悪くなり、その結果プラークが溜まり
インプラント周囲の清掃が不良となります。そのため
インプラント周囲炎を起こす可能性が高くなります。
また
上顎の前歯の部分のような、見た目が気になる部位では
審美的に満足な治療結果を得ることができなくなることになります。
2、条件が限定された場合でないとフラップレスインプラント埋入は困難です。
▲骨の幅が薄い
▲神経や上顎洞までの骨の厚みが足りない
画像7,8
このような症例ではフラップレス手術は、ほぼ不可能といえます。
不可能とはできないという意味ではなく、通常の手術を選択したほうが
安全で確実にインプラントが埋入できるということです。
では
安全にフラップレスインプラントができる条件を挙げてみますと
▲骨の幅が十分有る
▲神経や上顎洞までの骨の厚みが十分有る
▲歯肉の厚みがない
画像9
このような条件が揃っているインプラント手術は
骨の造成(GBR)も必要ありませんので、
シンプルで難易度の低い症例といえます。
このような症例では
歯肉の剥離、切開を行っても
感染のリスクはほぼありませんし、
術後の腫れや痛みもほとんどありません。
さらには
フラップレスを選択しなくても、手術時間にほとんど差はありません。
当クリニックでは
インプラント治療を希望するすべての患者様に
術前にCTで3D診断を行っていますが、
フラップレスはこのような理由で
特別な事情がない限り行っておりません。
インプラント埋入後に痛みが生じる原因は、
さまざまな原因がありますが。
フラップレスが可能な症例に限り
説明致しますと
歯ぐきを切開、剥離することよりも
インプラントを埋入時に
周囲の骨になるべく圧力を加えないほうが重要です。
圧力がかかると術後の痛みの原因となるだけでなく、
インプラント周囲の骨の吸収につながることもありますので、
大変慎重な埋入操作が求められます。
圧力がかからない埋入と圧力が加わった埋入 図10
インプラントをあまりに周囲の骨に対してトルクがかかった状態で
埋入すると、術後約1週間痛みが生じる場合があります。
痛みややがて消失しますが、
インプラント埋入1~2か月後に
インプラント周囲の骨に吸収があらわれます。
この吸収はインプラントの予後に
大きく影響しますので、
吸収した部分には、人工骨を補充しておくことが必要となります。
現在フラップレスを手掛けているクリニックはたくさんありますが、
すべての症例がその適応になるわけではありません。
▲骨の造成(GBR)を必要とするケース
▲上顎洞内に人工骨を填入するケース
▲下顎管神経に近いケース
等には歯肉を切開剥離する必要があります。
では
フラップレスに適している症例は
インプラントを埋入する部位の骨の厚みや幅が十分あり、
上顎洞や神経など重要な組織に対して安全な距離を確保できる
もので、難易度が低い症例であるといえます。
術後の痛みは
様々な原因がありますが、
このような好条件が揃っている症例の場合では
歯肉を切開、剥離したのではなく
インプラントを埋入した時に
インプラント周囲の骨に、一定以上のトルクがかかった状態で
インプラントを埋入しないことが肝要です。
一定以上のトルクをかけると、術後痛みが出る可能性が高くなります。
それだけでなく、インプラント周囲の骨の吸収が生じることもあり、
人工骨の補充だけでは対応することができずに、
インプラントの再手術の可能性すらでてきます。
以上
フラップレスインプラントの利点や注意点を記述しましたが、
歯肉を切開、剥離することは
インプラントが定められた位置まできちんと埋入できていることを
確認するためでもあり
それはCTによる画像より、視認するほうがより確実なものです。
当クリニックでは
安全で確実に患者様にインプラント手術を行うためには
必要な処置であると考えています。